7/1に神戸芸術工科大学に行って新海誠に会ってきた

なかなか無い機会でしかも西日本在住だったので行ってきた。その時のまとめを書く

神戸芸術工科大学にて、ゲストはアニメーション監督・新海誠による講演が行われた。司会は大塚英二氏。そしてComixWave Film(以下、CWF)の代取・川口典孝氏。川口氏は別にゲストでもなんでもない。ただ、新海氏についてきただけ
まず、壇上に上がり、簡単な自己紹介としてデビュー作の「ほしのこえ」のPVを流す。この時の「長峰 美加子」役は当時のガールフレンド。
内容について、1.作品をどのようにつくっているのか?ノートに描いたラフスケッチからどうやって完成させるのかを実演する。2.PV作品について。ラフではなく音楽が先にある場合。3.秒速5センチメートル。小説からできた作品それに絵コンテを切り自分で演技からビデオコンテをつくる過程を説明
なお、今回の講演では技術的な話は一切しない、と注意された。
1.「猫の集会」はどのようにしてつくられたか。まず、コンセプトとして「1分という短いアニメでアニメに興味のない人にもちょっとした瞬間に見て貰えるような作品を目指した」と新海
作り方は、始めにノートに絵コンテ(殆どラフ並)を描く。それをスキャニングしたのちににPsで切り抜きカットごとに分け軽く色(陰影を付ける程度)を塗りそれをAEに読みフェードイン・アウト等のエフェクトを加え素材音源やスタッフの声で音を加え雰囲気を出し、動画コンテをつくる。
新海「ここまでは、みなさんと技術的な差はない。難しいことは何もない。紙と鉛筆とパソコンがあれば出来る。ここまで出来れば作品の7割が完成する。あとはどれだけ作り込むかの世界になってくる」
新海「アニメは実写映画やゲーム制作と違いとことん分業なのでスタッフにその作品のイメージを伝えないとダメ。だから一度自分用につくったビデオコンテを元に背景や人物の移動、カメラパン等詳細な情報を詰めたビデオコンテもつくる」
なお、このときにサンプルとして見せて貰った「猫の集会」は入稿前のものでエンドクレジットが「押井守」だった。会場爆笑。
2.PV作品について。主にminoriの出すゲームのPV作品の話
新海「音楽が先にあってその上に映像を乗っける手法なPVをつくるのは比較的楽。起承転結が音楽の中で完成されているのでつくる側は演出やタイミングに集中出来る。自分のPVの作り方も10年前(遠い世界)の時から変わらない。」
まずefのPVを流す。先に見る前に注意として「実は公開されているものとは一部違うところがある」と言う。
その次に「遠い世界」を流す。この作品もクラシックという元からある音楽を使っていて、タイミングに合わせてカット割りをしている。この作品は新海曰く「恥ずかしい」ので半分ほど流したところでとめた。
新海「作品をつくるのは恥ずかしがらないでほしい。どんなに恥ずかしい作品でも見て貰って評価してくれる人はいる。この(自称恥ずかしい作品である)遠い世界もコンテストに出して受賞できた。」
新海「遠い世界での声優さんは当時好きな女の子に頼んだ。そういうコミュニケーションの手法のありだと思う」
リア充新海誠さん・・・ RT @asonas:新海「遠い世界での声優さんは当時好きな女の子に頼んだ。そういうコミュニケーションの手法のありだと思う」
新海「僕のつくるPV作品にはかならず盛り上がりを付ける。それは言葉・歌詞のタイミングで映像演出を加えたりタイミングを合わせたりする。特に"ef"のPVではその盛り上がりをキープしたまま最後まで持って行くことに尽力した」
3.秒速5センチメートルについて
新海「この作品は、小説から先につくった。自分で小説を書き上げその中から会話のピックアップを行い。情景の描写をし、絵コンテを制作。そして自分の演技を声を当てた。後は普段やっているビデオコンテと同じように音の追加簡単なエフェクトを追加する」
大塚「新海の作品はすごくマンガである。カット割りや絵コンテの時点での色塗りが本当にマンガ的手法でつくられていている。これからのアニメは新海のような手法になっていく」
大塚「しかし、新海のようなアニメーター(アニメーション監督)は新海の登場以来登場しなかった。なぜか。それは新海のデビュー作品を見てみんなが普通のアニメと同じ手法でつくっていたからだ。普通のアニメはチームを組んでやらないと出来ないが、コレまで新海が説明した方法だとひとりで出来る。」
新海「僕がやっていることは、鉛筆と紙で描いたものをPCに取り込んで貼り付けてくっつけただけ。先にもいったが、誰にでもできる。ここで大塚さんにマッピングされて初めて気が付いたが、僕の手法はマンガから影響を受けているのかもしれない。」
新海「デジタルのいいところは、アナログなものをPCにぶち込んでいくらでも編集ができるところ。そして素材はどこにでも転がっている。僕はビデオコンテをつくるときに声優さんの声は使えないからその場にいるスタッフに声をかけてPCの前に座らせて声を撮ったりする。」
ここで質疑応答にうつる。
Q「色はどうやってつくっているのか?」A「勉強はしていない。本能ままにつくってる。在学在学中に水彩絵の具を使って絵本をつくっていたことがある。アナログからつくる色はもともと好き。色の温度感が表現しやすい」
Q「モチベーションはどうやって沸いてくるのか?」A「『ほしのこえ』をつくるときはゲーム会社に勤めていたが、アニメをつくりたいと思ったときにどうしても障害となった。だから、やめたかいがあった作品をつくりたいという気持ちがあったから寝食以外はアニメに没頭できた」
つづき…「しかし、今になってくると、こういうと身も蓋もないんだけど、僕にはアニメーションしかない。結婚もしていないし、アニメーションをやっていかないと社会的地位が無くなる。もっというとアニメーションがないと生きていけない。」
Q「ネタに困ることは?」A「もちろんあります(笑)悩むこともあるけど、酒を飲んだり、ジョギングをしたりします」
Q「長尺や短尺などで気を付けていることは?」A「短尺の時はとにかく楽しくやっている。長尺の時は思い切りをつける。監督という立場でスタッフを1年長いと3年も拘束してしまうわけだから生半可な気持ちでは出来ない。今回のロンドンにいったのも次回作のための思い切りをつくるため」
Q「心理操作などを意図的に行っているのか?」A「まだ、あまりわからないですね(笑)起承転結はしっかりさせてますけど・・・(大塚のほうに首をむける)」
大塚「新海の手法はすごく初歩的なマンガの技術が使われている。視線の微妙な移動やそれこそ君たち(大塚はメディア表現学科の講師)が授業でやってることと同じ」
えーと、今更ですが、敬称略させてもらってます。
ちょっと、専門的なことを質問される方がいらして、一部の質問が聞き取れないところがあった。これについては少し個人的な文句もあったりするんだけど。あとで。
Q「昔と今とのお金と時間の余裕の違いは?」A「8年経ったので心の余裕はある。お金に関しては退職した時に300万円ほど貯金があった。300万円あれば1年暮らせる。アニメのためにやめたから寝食以外は本当にアニメをつくっていた。だから退職手当とか出していない。」
大塚「新海は印税で食べてる。このあたりもマンガ的。(ここで観客席にいる川口にマイクを渡す)」
川口「今日は新海の講演より大塚さんの講演を聴きたかったんだけどなぁ(笑)だから余り喋ることとか考えてないが(CWFのロイヤリティについて話すが割愛)新海みたいな作家を目指すと孤独。そして作家性がないとロイヤリティだけでは食っていけない。あと、新海は大金持ちです!(会場爆笑)」
川口「新海はロイヤリティだけで食える。しかし、これは通常のアニメ業界にあるテレビ局がロイヤリティをかすめていく状態とは対局に位置する新海。これは珍しい例」
Q「光の表現のこだわりはあるか?」A「デジタルになってからいろんなことが出来るようになった。第一にたのしい。観察はしていたわけではないが、つくっていくうちに自分に身についてきた。」
このあたりで製作に関する細かい質問が出たが割愛。文章では説明出来ない。
Q「新海氏はブラシで色を塗っているが、それはなぜか?」A「ひとつはブラシは好きなようにカスタマイズできる。(ひとつブラシを例にとり)コレなんかは筆をつかって墨を紙に塗ったものをスキャニングして加工してつくった。それにブラシは共有が出来るので美術などで差異が出ない。」
つづき…「ブラシだけというより、ペンタブの機能を最大限に生かすことも重要。たとえば僕はWACOMのペンタブを使っているがそのペンにあるボタンはブラシのサイズを変えられるようにしている。それとスポイト、消しゴム、ブラシはよく使うからショートカットを定義している。」
Q「大学生活でしておくといいことはあるか?」A「元々全然関係のない大学にいたからなんとも言えない。さっきも言ったが絵本は書いていた。働き始めるとわかるが時間が無くなる。だからなにか大学生活でアクションを起こすべきではある。ちなみに卒論は永井荷風について書いた(笑)」
Q「スタッフとの意思疎通のしかたは?」A「身内のスタッフだと絵コンテだけになったりするが外のスタッフとやるときは繋がらなくなるから詳細なビデオコンテをつくる。細かな指定もいれる。」
Q「ゲーム会社との違いは?」A「ゲーム会社に居たときはチームでつくっていたが、アニメになってからとことん分業になっていった。だからスタッフのコミュニケーションは重要」
Q「ご自分の作品のMADについてどう思われているのか?」A「正直に嬉しいです。僕もニコ動やYouTubeに投稿されているMAD作品を見ている。あとYouTubeに本編が掲載されているが別に消さなくてもいいですよね?(川口氏の方を見ながら)」
川口氏は首をかしげるような頷いたようなそぶりを見せる。少し会場ざわつく
新海「ただ、僕の作品をYouTubeなんかで見た気にならないで欲しい。BDやDVDで見る方が圧倒的に美しい。」
ちなみにこの質問をしたのは俺なんだけど、講演が終わったあとに話をさせて貰ったが、新海「MAD作品をつくったときは是非僕にメールをください」とのこと。新海さんはMADについてはすごく前向きな態度。
Q「くもや夕日にたいするこだわりはあるか?」A「天気は表現しやすい。アニメは動きでカットがで切るが背景の動きでカットを切ってもいい。キャラは大変だが、背景でカットを切るのは好き」
大塚「こういところでもマンガ的である。本来のアニメはキャラが動いてアニメとして成立するが、新海の作品はホントに背景だけでカットを切ることが多くある。」
Q「新海氏のように作品を公開するにはどうしたらいいのか?」新海「これは僕に聞くより、川口さんに聞いたほうがいいんじゃないかな?」新海、川口にマイクを渡す。
川口「作品の持ち込みは大歓迎。ただし、脚本は絶対受け取らない。5秒でもいい。映像にして持ってきて私たちがそれを見て心が打たれたら「その作品で行こう」と思える。作者たちの意気込みを感じたい」
川口「CWFでは、作品の企画が通ると制作費がおりる。数百万だとか数千万だとか。だがそれだけヒットしてもらわないと困る。そういった意味で心をうつ作品を持ってきて欲しい。」
川口「現在CWFには『チーム新海』というのがある。美術が10人程度いる。たまに募集をかけて20人から30人の応募があって1人通るかの世界。これに通ると新海と一緒に仕事はできる。原画や動画は外にだしてるからなんとも言えない」
川口「多くの人が期日に作品を持ってこないが、そういう時はCWFから動画や原画などのスタッフを送り込むこともある。新海も期日には持ってこないが「二ヶ月、時間をくれ」と言うとかならず二ヶ月で作品を上げる。そしてきちんと二ヶ月作り込んだ作品になる。それが新海のすごいところ」
この辺りですでに17時を超えており質問は打ち切られた。本来は90分の講演だったのだが、2時間以上の講演なっていた。